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東京地方裁判所 平成8年(ワ)20882号・平8年(ワ)6489号 判決

主文

一  被告は、原告許に対し、金四八五万八三三三円及びこれに対する平成八年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告鈴木に対し、金三九七万六五五一円及びこれに対する平成八年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告許のその余の主位的請求及び予備的請求並びに原告鈴木のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを六分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  第一事件

1  主位的請求の趣旨

(一) 被告は原告許に対し、二〇一〇万二〇〇〇円及びこれに対する平成八年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被告と原告許との間において、同原告が別紙物件目録記載二の店舗について、賃貸借期限平成一三年八月三一日、賃料一か月金一〇万七〇〇〇円、毎月末日限り翌月分支払の定めによる賃借権を有することを確認する。

2  予備的請求の趣旨

被告は原告許に対し、一八六〇万円及びこれに対する平成八年四月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  第二事件

被告は原告鈴木に対し、三六三四万〇一〇七円及びこれに対する平成八年一一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告所有の建物を賃借して店舗として使用していた原告らが、その建物が火災により使用できなくなったことについて賃貸人である被告に責任があるとして、民法七一七条の不法行為及び債務不履行に基づき、原告に対し損害賠償を請求した事案であり、原告許においては、右に加えて、賃借していた店舗の賃借権の存在確認をも求めている。

一  前提となる事実

1  被告は不動産の賃貸、管理及び飲食店の経営等を目的とする有限会社である。

2  原告許は、昭和六一年九月一二日、別紙物件目録記載一の建物(以下「本件建物」という)の所有者であった伊土幸夫との間で、本件建物のうち別紙物件目録記載二の部分(以下「一階店舗」という)を次のとおり賃借する契約を締結し、その引渡しを受け、これを飲食店として使用していた。

(一) 期間 昭和六一年九月一日から同六四年八月三一日まで。ただし、右期間は平成四年八月三一日まで、平成七年八月三一日までと二回更新された。

(二) 賃料 一か月当たり九万円

(三) 支払方法 毎月末日限り翌月分支払

(四) 敷金 一〇〇万円

(五) 使用目的 飲食店経営

3  被告は、平成五年六月二九日、本件建物の所有権を取得し、一階店舗の賃貸人としての地位を引き継いだ。

4  被告は原告許に対し、平成五年七月ころ以下の条件で一階店舗を賃貸し、原告許は引き続き一階店舗を飲食店として使用していた。

(一) 期間 平成七年八月三一日まで

(二) 賃料 一か月当たり一〇万七〇〇〇円

(三) 支払方法 毎月末日限り翌月分支払

(四) 敷金一〇〇万円

(五) 使用目的 飲食店経営

5  原告許は訴外梅川佳男(以下「梅川」という)に対し、平成七年三月三〇日、以下の条件で一階店舗の経営を委託した。

(一) 期間 平成七年三月三〇日から平成九年三月二九日まで

(二) 委託料 一か月当たり三三万円

(三) 支払方法 毎月末日限り当月分支払

(四) 契約更新 特段の事情のない限り、一回以上更新する。

6  原告鈴木は被告との間で、平成五年一二月二日、以下の条件で本件建物のうち別紙物件目録記載三の部分(以下「二階店舗」という)を賃借する契約を締結し、その引渡しを受け、同所で飲食店「RUN」を経営していた。

(一) 期間 平成五年一二月二日から平成七年一一月一日まで

(二) 賃料 一か月当たり二五万円

(三) 支払方法 毎月末日限り翌月分支払

(四) 敷金 五〇万円

(五) 特約 更新の際には、賃料の一か月分を更新料として支払う。

7  一階店舗及び二階店舗は、平成七年六月二一日午後五時四七分ころ、本件建物から出火した火災(以下「本件火災」という)により、賃貸借契約の目的物として使用することができなくなった。

二  原告らの主張

1  被告の責任ー土地工作物責任

(一) 土地工作物たる建物の保存上の暇疵

(1)  本件火災の出火場所

本件建物において、電線は路面地下から立ち上がっている引込線から引いており、階段横壁の分電盤を経て一階と二階に分かれ、二階へは階段上部の一階天井と二階床面との間(天井裏)を電線が通っている。右天井裏部分にある電気配線の銅線接合部分(以下「本件銅線接合部分」という)から発火した。

(2)  本件銅線接合部分には、腐食により細化が生じていたため、通電時には右細化部分に発熱が生じ、これが長期にわたって重ねられ、銅線の被膜が消失し、銅線の周囲の部分の炭化が進んでいた。そのため細化していた銅線が発熱し、これが発火して、天井裏の木材部分に移転した。

(3)  土地工作物該当性

本件銅線接合部分を含む配線は、一階天井と二階床面との間を通っていて配線は外からは見えず、仮に配線を取り替えるとすると建物の一部を壊さなければならないような場所に設置されており、加えて、土地工作物である建物に接着して設置され、このような配線があることによって建物の効用も全うされる。

したがって、右配線は、本件建物と一体をなすものとして民法七一七条所定の土地工作物に該当する。

(4)  保存上の瑕疵

銅線接合部分といえども、電気配線は、本来その電気抵抗等を考えて、異常な発熱が避けられるだけの太さを備えているのが正常な状態であり、銅線の被膜も十分にされていなければならない。

本件銅線接合部分は、断面積が極端に細くなっており、通電時には容易に発熱する状態になっていたため、その被膜まで消失し、周囲の木材部分を炭化させていた状態であった。このような状態は極めて異常であり危険な電気配線の状態というべきであり、建物の保存上の瑕疵であることが明らかである。

(二) 本件銅線接合部分の占有者

(1)  本件建物については、被告が原告らに対し、一階についても二階についても、店舗として賃貸している。

(2)  本件銅線接合部分は、本件建物の一階の天井裏で、二階の床下の部分にある。被告は店舗を賃貸しているにすぎないから、本件銅線接合部分のある部分については、店舗の賃借人である原告らが通常当然に使用する場所ではなく、各賃借人が占有する部分ではない。

右部分は、賃貸人である被告が直接占有し、管理する部分である。

(三) 賃貸人である被告の過失

本件火災により一階店舗の使用が不能になった原因は被告の過失にある。

すなわち、被告は、本件建物が相当老朽化しているだけでなく、何度も改装を経て、その都度配線部分に手を加えてきた木造建物であることを十分に知っていた。したがって、電気配線等に異常が生じ、被膜が劣化していることや、その状態では放電・発熱の継続によって建物への着火がいつ起こらないとも限らない状況であることを認識していたか、容易に認識し得たはずである。

しかし、被告は、このような状況を認識して火災発生の危険を予見し得たにもかかわらず、何ら点検整備をせず、火災防止措置を採ることを怠り、漫然と放置して、賃貸人としてすべき本件建物の保存管理責任を果たしていなかった。

2  被告の責任ー債務不履行責任

(一) 本件火災の原因

本件火災は、本件建物の階段室一階入口の天井裏部分にあった屋内配線の圧着スリーブを使用して接続していた箇所(本件銅線接合部分)が上部のガス管又は汚水管の結露水等により表面から徐々に酸化し、通電路断面積が減少したため、この部分から局部的に多量のジュール熱が発生し、配線被覆に着火し、階段入口天井裏中央付近から出火することによって発生したものである。

右圧着スリーブ使用箇所は、分電盤から二階への配線の途中にある。

(二) 本件建物の状況

本件建物は昭和二〇年代に建築されたが、被告の前代表者である前田光安は昭和三〇年までには本件建物の二階店舗を借りてゲイバーを経営し、平成五年末まで右経営を続けていた。したがって、被告は前田光安の個人会社であったところ、同人は本件建物の状況を十分に知っていたものである。

(三) 賃貸人たる被告における本件建物についての管理保安義務違反

(1)  家屋の賃貸人は、賃貸物を賃借人に使用収益させる義務を負い、賃貸物について賃借人が使用収益権限を失うことのないようにしなければならない。したがって、賃貸人は、賃借人が使用収益権限を失う危険が顕在化している場合にはこれを修繕しなければならないし、また右危険の有無について適宜点検して、危険箇所を整備するなどの必要な措置を採らなければならない。

とりわけ本件においては、本件建物が建築以来四〇年以上を経ていること、被告は本件建物の所有者であり、賃借部分以外の空間や共有部分については被告以外に管理すべき立場にある者がいないこと、被告の前代表者である前田光安は本件建物の二階部分を約四〇年近く使用しており、本件建物の状況をよく知っていたこと等の事情があるから、賃貸人たる被告は電気配線の状況等を含めて本件建物全体の設備について管理点検すべき義務を負う。

(2)  本件火災の原因になった圧着スリーブの酸化による通電路断面積の減少は、急激に生じた変化ではなく、相当期間の経過により生じたものである。

したがって、被告が本件建物を点検していればこれを容易に発見することができたし、また容易に補修することもできたはずである。

(3)  しかし、被告はこれらの点検を行わなかったため、右通電路断面積の減少を発見できず、漫然とこれを放置して、配線・配管の修理など火災防止のために必要な措置を採らなかったのであるから、そのために生じた本件火災は、被告の賃貸人としての本件建物の管理保安義務違反によって生じたものというべきである。

したがって、被告は債務不履行責任を免れない。

3  原告らの損害

(一) 原告許の損害

(1)  主位的請求

ア 原告許は、本件火災により、一階店舗内の設備備品をすべて失ったほか、一階店舗を使用することができなくなり、一階店舗における飲食店経営によって得べかりし利益を失った。これによる損害は以下のとおり二〇一〇万二〇〇〇円を下らない。

(ア) 一階店舗内の設備備品の残存価値 三六〇万円

原告許は、昭和六一年から一階店舗において飲食店において飲食店を経営していたが、飲食店の設備、備品のために少なくとも一二〇〇万円を支出しており、これらの設備、備品は優に一〇年以上の使用に耐え得るから、平成七年六月二一日現在において、その残存価値は右一二〇〇万円の三割である三六〇万円を下らない。

(イ) 逸失利益 一六五〇万二〇〇〇円

一か月当たりの逸失利益は、前記一5の委託料月額三三万円から同一4の賃料月額一〇万七〇〇〇円を差し引いた額である二二万三〇〇〇円である。

そこで、右二二万三〇〇〇円に、本件火災の日である平成七年六月二一日から賃貸借の期間である平成一三年八月二〇日までの七四か月分を乗じた額である一六五〇万二〇〇〇円が原告許の逸失利益である。

(ウ) 合計 二〇一〇万二〇〇〇円

イ また、原告許は、前記一4のとおり、被告から一階店舗を賃借していたところ、右賃貸借契約は、平成七年八月三一日及び平成一〇年八月三一日に、それぞれ三年間自動更新されている。

なお、一階店舗は、本件火災により、現状のままでは店舗として使用することができないが、滅失したものではなく、賃貸人である被告が一階店舗の天井及び店舗の内装等を補修すれば、原告許が一階店舗を店舗として使用することは十分に可能である。したがって、原告許と被告の間の一階店舗の賃貸借契約は終了していない。

しかし、被告は、原告許の賃借権の存在を争っているから、原告許には、右賃借権の確認の利益がある。

(2)  予備的請求

原告許は、昭和六一年八月、黒川東海彦から、一階店舗の賃借権を含んだ飲食店の権利を借家権、すなわち譲渡性のある財産権として、一五〇〇万円で購入した。

仮に、原告許と被告の間の一階店舗の賃貸借契約が本件火災によって終了した場合には、原告許の有する一階店舗についての借家権が失われることになる。右のとおり失われた借家権の価格は、原告許の借家権購入価格である一五〇〇万円が相当であり、右金額が原告許の被った損害額である。

したがって、賃貸借契約が終了した場合の原告許の損害は、右一五〇〇万円に(1) ア(ア)の三六〇万円を加えた一八六〇万円である。

(二) 原告鈴木の損害

原告鈴木は、本件火災により、二階店舗内の設備備品をすべて失ったほか、二階店舗を使用することができなくなり、二階店舗における飲食店経営によって得られるべき利益を失い、また今後の店舗営業のために店舗の移転を余儀なくされた。これによる損害は以下のとおりである。

(1)  二階店舗内の設備備品の価値 一八五万円

本件火災によって原告鈴木が失った設備備品は、原告鈴木が被告と賃貸借契約を締結して営業を開始する際に新たに購入したものや、酒類その他の常に新しく充当されるもの(消耗品)ばかりであり、その価値はほぼ購入時の価値に等しい。

したがって、右価値相当分である一八五万円が原告鈴木の損害である。

(2)  逸失利益 三〇一〇万五一二〇円

原告鈴木と被告との間の賃貸借契約については、特約によって更新料の支払による契約更新が予定されていたこと、原告鈴木は二階店舗の営業を開始するに当たって設備備品をすべて新たに購入していること、本件火災は営業が軌道に乗り始めた時期に発生したものであること等からすると、本件火災が発生しなければ、原告鈴木は被告との間の賃貸借契約を更新し、少なくとも平成一五年一一月末までは二階店舗における飲食店経営を継続していた。

原告鈴木は、右飲食店経営により一か月当たり平均二九万七〇九〇円の利益(本件火災の前一年間の売上金の合計は一一八八万三六一二円であり、利益率を三割として計算した数値)を得ていたのであるから、本件火災が発生しなければ、少なくとも一か月当たり二九万七〇九〇円以上の利益を得ることができたものであり、これは原告鈴木の損害である。

そこで、右二九万七〇九〇円に、平成七年六月二一日から平成一五年一一月末までの八年五か月一〇日間分を乗じた額である三〇一〇万五一二〇円が原告鈴木の逸失利益である。

(3)  店舗移転による損害 七一八万四九八七円

原告鈴木は、本件火災により、営業を継続するために他の店舗を賃借したため、以下の支出を余儀なくされた。

ア 権利金相当額 二八〇万円

イ 企画料    三八万六五七九円

ウ 仲介手数料  一九万三二九〇円

エ 内装費    三七〇万円

オ 開店案内費  一〇万五一一八円

4  よって、原告許は被告に対し、主位的には、一階店舗についての賃借権の確認並びに不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として二〇一〇万二〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年四月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき旨を求め、予備的には、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として一八六〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年四月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき旨を求める。

また、原告鈴木は被告に対し、不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として三九一四万〇一〇七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成八年一一月一七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき旨を求める。

三  被告の主張

1  土地工作物責任

(一) 原告ら主張の出火原因は否認する。原告は、漏電の原因として、本件銅線接合部分が結露水や汚水の漏れ等により銅線の表面から徐々に腐食したことを主張するが、それは根拠のない推測にすぎない。すなわち、いくつかある圧着スリーブによる接合箇所のうち、本件銅線接合部分のみが異常に腐食した状態であったことや、右部分にのみ結露が生じ又は汚水がかかっていたことを示す証拠はない。圧着スリーブ部分の腐食がどうして生じたのかは明らかではない。

(二) 屋内配線とりわけ銅線接合部分は、それ自体が土地に接着して人工的作為を加えられたものということはできないし、必ずしも建物と機能的、構造的に一体化しているともいえない。また、屋内配線自体の危険性もほとんどない。したがって、屋内配線は民法七一七条の土地工作物には当たらない。

(三) 民法七一七条一項の工作物責任の第一次的責任は占有者が負うが、この「占有」は現実の占有をいうものと解すべきである。なぜならば、同条項によれば、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が責任を負うべきものとされているが、所有者は常に観念的に占有を有するのであるから、この場合に占有者は現実の占有がなければならない。

本件出火場所は本件建物二階で原告鈴木が経営していた「RUN」への入口に当たる階段上部の天井裏付近であり、そこにはシャッターが備え付けられ、閉店時にはシャッターが閉められるようになっているから、右階段部分には、原告鈴木の意思に反して立ち入ることができない。すると、仮に屋内配線が土地工作物に該当するとしても、本件出火の第一次的責任は占有者である原告鈴木が負わなければならない。

(四) 土地工作物責任が一般の不法行為よりも加重されているのは、危険性を内包する工作物を占有(所有)する者あるいはその工作物を利用(所有)して利益を得る者と、その工作物により損害を受けた第三者との間で損害の適切な分配を意図しているからである。本件においては、原告両名は本件建物を占有し、これを営業の用に供していたものであるから、そもそも屋内配線が土地工作物に該当するか否かの問題以前に、本件建物の賃借人(占有者)である原告らと本件建物の賃貸人(所有者)である被告との間では土地工作物責任を論じる余地がない。

2  債務不履行

(一) 被告には本件出火場所を点検する義務があったものとはいえないから、債務不履行はない。

被告が本件建物の所有者であっても、本件建物に対する占有は抽象的なものであり、共用部分の現実的(具体的)占有は原告らにあったのであるから、第一次的管理義務は賃借人である原告らが負っていたものというべきである。すなわち、本件建物の賃借人は原告ら二名しかおらず、原告ら二名で本件建物全部を使用していたものである。このように、一階部分を原告許が、二階部分を原告鈴木が賃借している本件建物のような場合、それぞれの専有部分を除いた部分は右二名の賃借人がそれぞれ管理する義務を負うものというべきである。とりわけ、本件出火原因として原告らが主張する場所は本件建物の階段室一階天井裏であり、これを点検するためには一階部分天井又は二階部分の床を剥がさなければならない。しかも、前記のとおり、右階段部分にはシャッターが備え付けられ、原則として原告鈴木の意思に反してそこに立ち入ることができないのである。被告がこのような場所についてまで点検することを期待することはできない。

(二) 被告は、平成三年ころ、本件建物の二階部分の内装工事を株式会社滋野工務店に依頼し、同会社が天井、床、壁の貼替えと共にコンセントを増設するなどの電気関係の工事を行ったが、その際、本件銅線接合部分を含む配線工事も行った可能性が高い。このように、平成三年に専門業者が電気工事を施工した以上、被告は、その工事の適切性を信じることができるし、万一不具合部分があっても補修されているものと信頼することができる。

また、被告は、本件建物にはブレーカーを備えた配電盤が設置されているから、電気的な異常が発生すればブレーカーが作動し、電気の供給を止めることにより安全性を確保し得るものと信じることができる。

したがって、被告が屋内配線の接合部に腐食が生じる可能性を予見することなどおよそ不可能であり、被告には予見義務がないから、過失も存在しない。

3  原告らの損害

被告は原告らの損害に関する主張をすべて争う。

(一) 原告許の損害について

(1)  原告許が梅川との間で締結した店舗営業委託契約は実質的には本件建物の転貸借契約である。このような実体的に違法な契約関係に基づく逸失利益や造作・設備の残存価値を損害として被告に請求するのは明らかに信義則に反して許されない。

すなわち、一階店舗の賃貸借契約においては、事前に賃貸人の書面による承諾を受けないで賃借権を譲渡、転貸又はこれに準じる行為をすることは禁じられており、賃借人が右行為をしたときは催告をしないで直ちに賃貸借契約を解除できると規定されている。しかし、原告許と梅川との間の実質的賃貸借について被告の承諾はない。

そこで、被告は本訴において、無断転貸を理由として一階店舗の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

(2)  本件建物について原告らと被告とが締結した各賃貸借契約は、本件火災で本件建物が滅失したことにより終了した。

すなわち、本件建物は昭和三四年以前に建築され、築後四〇年以上を経過した木造建物であり相当に老朽化していたこと、本件火災により、二階部分は柱、内壁、床等が焼損し、柱、梁は炭化している上、天井が焼失・焼損して屋根が焼け落ちているから少なくとも屋根を設置しないと店舗としての機能は果たせないこと、一階部分も焼失こそ免れたとはいえ、部分的延焼、冠水により内装や電気・給排水・ガス等の設備回りの補修、改装が必要であり、通常の修繕費では修復不可能であること等の事情が認められる。右のような状態にある本件建物は、建物全体としての効用を失っていることは明らかであり、滅失したものというべきである。

(3)  原告許は、予備的請求として、<1> 二階店舗内の設備備品の残存価値、<2> 逸失利益に加え、<3> 借家権価格相当額を損害として追加する。しかし、右<2>の逸失利益は<3>に含まれるべきものであるから、重複して請求することはできない。

(三) 原告鈴木の損害について

(1)  原告鈴木が経営していたバー、スナックなどの業種はその時々の経済的変動に敏感に影響を受けるものであり、本件火災後八年余にわたって営業を続けられる蓋然性は極めて低いというべきである。

(2)  原告鈴木は逸失利益のほかに店舗移転のための費用を損害として主張する。しかし、将来の利益を確保するために新店舗を賃借したはずであるから、得べかりし利益と新店舗を賃借するために要した費用の両方を請求することはできないというべきである。

第三当裁判所の判断

一  本件火災の発生原因

1  証拠(甲一一ないし一五、三七、三八の1ないし5、三九、証人石川達二)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。

(一) 火災の発生

二階店舗の店長である原告鈴木は、平成七年六月二一日午後五時三〇分ころ右店舗に出勤し、開店準備をしていたところ、店内トイレからきな臭い臭気と薄い煙が出ているのに気がつき、同日午後五時五五分ころ一一九番通報した。そのころ、近隣の店舗の店長相川紘一郎は二階店舗に通じる階段入口上部から炎が見えたので、消化器を用いて消火を試みたが、効果がなかった。その後、通報を受けた四谷消防署は、二階店舗に通じる階段入口及びその隣の建物二階にある店舗「厨」に通じる階段入口の各天井部分から炎が上がっているのを確認し、二階店舗のほかその周囲の建物に対しても消火活動を行い、同日午後八時四〇分ころ鎮火した。

(二) 焼損状況

四谷消防署が平成七年六月二二日に本件火災現場を見分した結果によれば、二階店舗を外部から見ると、屋根が焼けて、かわら棒葺き屋根中央の長尺トタン板が破損し、焼失した小屋組みが露出している状況にあり、また、二階店舗へ通じる階段入口の天井に当たる部分の合板が焼失し、焼けた小屋組み等が露出しているが、その小屋組みを見ると、根太、野縁等に炭化による亀裂があり、強い焼失状況を示す炭化模様になっていたほか、一階店舗の天井裏を這うように配線されている銅線(以下「Fケーブル」ということもある)が、二階店舗に通じる階段入口の天井裏のほぼ中央付近で短絡により溶断していた。さらに、二階店舗を内部から見ると、店内は全面的に焼損し、天井板は焼失して小屋組みが露出している状況にあった。これに対し、一階店舗を内部から見ると、全面的に水がかかっているが、焼損箇所はなかった。

(三) 消防署の認定

四谷消防署は、火災後の現場見分状況、火災時の見分状況及び関係者の供述などを根拠にして、本件火災の出火箇所を二階店舗に通じる階段の真上に位置する天井裏(二階店舗のトイレ室の床下に当たる)であると判定した上、出火原因については、出火箇所や溶断しているFケーブルの状態などに基づき、右天井裏を通っているFケーブルの圧着スリーブを使用して接続した本件銅線接合部分が化学的及び電気的要因で表面から徐々に酸化し通電路断面積が減少したため、この部分から局部的に多量のジュール熱が発生し、配線被覆に着火して出火に至ったものと判定した。

2  以上の認定事実を前提として検討するのに、前記1掲記の証拠によれば、本件火災当時、Fケーブルのうち本件銅線接合部分が腐食して、通電路断面積の減少により、この部分から多量のジュール熱が発生しやすい状態になっていたこと、本件銅線接合部分のある天井裏部分が強く焼失した状態であったこと、原告鈴木は、本件火災の発見当初、二階店舗のトイレからきな臭い臭気と薄い煙が出ているのに気付いたが、右トイレは本件銅線接合部分のある天井裏の上部に位置すること、そのころ、近隣の店舗の店長相川紘一郎は二階店舗に通じる階段入口上部から炎が上がっているのを見たこと等の事情を併せ考察すれば、本件火災の発生原因は、四谷消防署の判定のとおり、本件銅線接合部分が化学的及び電気的要因で表面から徐々に腐食し、この部分から多量のジュール熱が発生し、配線被覆に着火して出火したものと認めるのが相当である。

二  被告の責任

ところで、右のとおり本件火災の出火原因になった本件銅線接合部分を含むFケーブルの配線は、一階天井裏という外部からは見えない場所に設置され、その配線を取り替えるためには建物の一部を取り壊さなければならないのであり、また、右電気配線は建物に接着して取り付けられ、建物の効用を高める役割を果たしているが、その設置又は管理の方法・態様いかんによっては、火災等の危険を生ぜしめる原因になるものである。すると、この配線も建物と一体をなすものとして、民法七一七条に規定する土地工作物に該当するものと解するのが相当である。

本来、通電を予定した電気配線は、電気設備に電気を供給するという目的を達するために安全な状態で設置、維持されなければならないのは当然のことであるが、その配線の一部である本件銅線接合部分のように、通電する断面積が減少し、通電時に発熱する状態になっているということは、その配線が安全な状態で維持されていたものとは認められないのは明らかであり、その保存上の瑕疵があるものというべきである。

そして、前記のとおり、本件の電気配線は一階天井裏部分に設置され、賃借人である原告らにおいては右配線の状態を点検したりすることができないようになっていたのであり、また、原告らが被告との間で右場所を点検するように取り決めていたとの事情もないから、原告らがその部分を占有又は管理していたものと認めることはできない。むしろ、その部分については、本件建物の所有者であり、賃貸人でもある被告がこれを占有、管理していたものと認めるのが相当である。これによれば、前記のように電気配線を危険な状態のままにしていたという建物の保存上の瑕疵については、被告がその占有者として右により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

この点につき被告は、仮に電気の屋内配線が土地工作物に該当するとしても、本件火災の第一次的責任は占有者である原告鈴木が負わなければならないとか、原告両名は本件建物を占有しこれを営業の用に供していたのであるから、賃貸人である被告との間では土地工作物責任を論じる余地がないとかと主張するが、被告に右責任があることは前示のとおりであるから、被告の右主張は採用することができない。

三  原告許の損害

1  主位的請求について

(一) 一階店舗内の設備備品

原告許は、本件火災当時、一階店舗内の設備備品の残存価値は少なくともその設置時の価格一二〇〇万円の三割に当たる三六〇万円を下らなかったと主張しているので、検討するに、証拠(甲八、一一ないし一五、四三)及び弁論の全趣旨によれば、原告許は昭和六一年に知人から一階店舗の賃借人としての地位を譲り受けた際、右店舗部分に飲食店としての内装設備工事をし、その工事費用として合計一二〇〇万円を支出したこと、本件火災及びその消火のための活動により、一階店舗の設備備品等がその効用を失ったことが認められる。また、原告許は、本件火災当時一階店舗で飲食店を営業していたのであるから、そのために必要な各種の動産類を一階店舗に現に備え置いていたことも容易に推認することができる。

以上の事情に基づき、一階店舗内の設備備品について原告許の損害を評価すると、合計三〇〇万円と認めるのが相当である。

(二) 逸失利益

一階店舗の一か月当たりの逸失利益は委託料月額三三万円から賃料月額一〇万七〇〇〇円を差し引いた二二万三〇〇〇円であり、これに本件火災の日である平成七年六月二一日から賃貸借の期間満了の日である平成一三年八月二〇日までの期間七四か月を乗じた額である一六五〇万二〇〇〇円が、原告許の逸失利益であると主張する。

証拠(甲六、七、四三)及び弁論の全趣旨によれば、原告許が一階店舗の営業委託により一か月三三万円の収入を得ていた事実を認めることができ、その金額から一階店舗の一か月分の賃料額一〇万七〇〇〇円を差し引くと、一階店舗について原告許に生じた一か月当たりの逸失利益は同原告主張のとおり二二万三〇〇〇円であると認めることができる。しかし、本件火災時を基準にしてみると、一階店舗の賃貸借契約の期間は平成七年八月三一日までであり、右賃貸借契約が平成一三年八月二〇日まで継続することを前提として逸失利益を算出している原告許の前記損害算定は明らかに理由がない。

右のとおり、一階店舗の賃貸借契約の残存期間は平成七年八月三一日までの二か月一〇日間であること、一階店舗は原告の承諾なく実際には梅川が営業店舗として使用していたという契約の継続に支障となりかねない特別事情が存したこと、本件建物は昭和三四年以前に建築された木造の建物であり、本件火災時には既に築後三五年を経過し相当に老朽化していたこと、原告許の営業内容が飲食店の営業であること、賃料額が一か月一〇万七〇〇〇円と比較的低額であること等関連する一切の諸事情を併せ考慮すれば、本件火災時(平成七年六月二一日)から一階店舗の賃貸借契約終了時(同年八月三一日)までの逸失利益のほか、その終了時から六か月分を加算した合計八か月一〇日分の逸失利益を損害として算定するのが当事者双方の損害の公平な分配の理念に適うものというべきである。

すると、右逸失利益の額は、次のとおり一八五万八三三三円になる(ただし、一か月に満たない日数については、一か月当たり三〇日の日割計算とする)。

二二万三〇〇〇円×八か月+二二万三〇〇〇円÷三〇日×一〇日=一八五万八三三三円

(三) なお、被告は、原告許と梅川との間で締結した店舗営業委託契約は実質的には本件建物の転貸借契約であり、原告許がこのような実体的に違法な契約関係に基づく逸失利益や造作・設備の残存価値を損害として被告に請求するのは明らかに信義則に反して許されないと主張するが、この点は前記のとおり損害賠償の算定の限度で考慮しているものであり、それ以上に本件において、原告許と梅川との間の右契約関係が、原告許と被告との賃貸借契約に反する違法なものであるとし、右契約関係を前提とする営業利益を違法として一切容認できないものとまでは直ちに認めることはできないから、被告の右主張は採用しない。

(四)以上のとおり認められる(一)及び(二)の損害額の合計は四八五万八三三三円になる。

(五) 賃借権の確認

原告許は、以上のような主位的な損害の請求に加えて、一階店舗は本件火災により滅失しておらず、その天井及び店内の内装等を補修すれば店舗として使用することは可能であるから、一階店舗の地位貸借契約は終了していないのであり、右契約は平成七年八月三一日及び平成一〇年八月三一日の経過によりそれぞれ三年間の期間で自動更新されているところ、被告は右賃借権の存在を争っているとして、賃借権存在確認の請求をしている。

前記のとおり、確かに、一階店舗だけをみるとその内部には焼損箇所はなく、消火活動時の大量の放水による冠水のため内装設備がその効用を失っているにすぎない状態であることが認められる。しかし、一階店舗は本件建物の構成部分であるところ、本件建物の屋根の一部は焼け落ちているし、二階店舗内部の柱、梁、内壁、床等は炭化し、天井板も焼失して、店内がほぼ全面的に焼失している状態であり、本件建物が建築後長期間を経過し相当に老朽化していることをも併せ考慮すれば、本件建物の一階店舗の部分を残して本件建物を改修することは極めて困難であるか又はその費用と効用の均衡を著しく失することになるのは明らかである。このように、本件建物を全体としてみたときには、一階店舗についても本件火災により賃貸借の目的物としての効用が失われたものとして、その賃貸借契約は終了したものと解するのが相当というべきである。

すると、原告許の右賃借権存在確認の請求は理由がないことに帰着する。

2  予備的請求

原告許は、仮に一階店舗の賃貸借契約が本件火災により終了したとすると、同原告の有する一階店舗の借家権が失われ、借家権購入価格である一五〇〇万円の損害を被ることになると主張するので、この点について検討する。

そもそも、借家権たる用語は不動産取引実務上の便宜的なものであり、実定法上、一般的に借家権という権利が存在するものとはいえない上、その内容は一義的明確性を欠くものであるから、借家権喪失に基づく損害なるものを直ちに法的な損害として認めることは相当ではない。また、本件において一階店舗の賃貸借契約上の賃借人としての地位についてみると、それが市場において交換価値を確実に有する取引の対象として位置付けられていることを認めるに足りる証拠はない上、一階店舗の賃貸借契約によれば、賃借人(原告許)は賃借権を譲渡する場合、事前に賃貸人の書面による承諾を得ることが必要であり、これを得ないで賃借権を譲渡した場合、賃貸人は催告なしに賃貸借契約を解除することができるとされ、その譲渡については賃貸人の意思にかかっているのである(なお、「賃借人が本店舗を第三者に譲渡するときは、賃貸人に譲渡価格の一割相当額を支払うものとする」特約条項が規定されているが、この規定は、賃借人がそのような対価を賃貸人に支払うことにより、賃借権譲渡を自由にすることができるということまで認めたものと解釈することはできない)。すると、一階店舗の賃借権については、前記1(一)で認定した一階店舗の設備備品の残存価値とは別にそれ自体で独立の経済的価値が存在するものと認めることはできないのであり、原告許の借家権に係る損害の請求は理由がない。

四  原告鈴木の損害

1  証拠(甲二一、二二の1ないし10、二四ないし三〇、三一の1ないし3、三二、三三、三四の1ないし13、三九、原告鈴木秀司本人)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 原告鈴木は、本件火災前の平成六年六月から平成七年五月までの一年間に、一階店舗における営業により少なくとも合計一一八八万三六一二円の総売上げを計上していた。

(二) 原告鈴木は本件火災により、別紙動産り災申告書記載のとおり、設備備品等の動産類を失った。

(三) 原告鈴木は、本件火災により二階店舗において飲食店の営業をすることができなくなったため、平成七年一〇月四日、新宿区新宿三丁目三一番五号所在の新宿ペガサスビルの五階五〇三号室を賃料一か月一七万五〇〇〇円で右同日から三年間借り受ける賃貸借契約を締結し、その引渡しを受け、同所において同年一二月一日ころからスナックの営業を開始した。

原告鈴木は、右の賃貸借契約の締結及びスナックの開店に当たり、次のとおりの金員を支出した。

(1)  右五〇三号室の保証金 二八〇万円

ただし、契約終了時に一〇パーセントを償却した上、賃借人である原告鈴木の債務を清算した後に返還される。

(2)  右五〇三号室の企画料 三八万六五七九円

(3)  仲介手数料      一九万三二九〇円

(4)  内装費        三七〇万円

(5)  開店案内費      一〇万五一一八円

(四) 鈴木は、右五〇三号室で行っていたスナックについても、その後営業が軌道に乗らなかったため、平成一〇年六月に閉店した。

2  二階店舗内の設備備品

原告鈴木が本件火災により失った二階店舗の設備備品等の動産類については、同原告が別紙り災申告書に記載した損害額合計一七七万三六三〇円を基に、その評価額について具体的裏付けがないことなどから、その五割に当たる八八万六八一五円の損害があったものと認めるのが相当である。

3  逸失利益

原告鈴木は、その逸失利益としては、一か月の利益である二九万七〇九〇円に、平成七年六月二一日から平成一五年一一月末までの八年五か月一〇日分を乗じた額である三〇一〇万五一二〇円が損害になると主張するので検討する。

前記認定のとおり、原告鈴木は、本件火災前の平成六年六月から平成七年五月までの一年間に、二階店舗における営業により少なくとも合計一一八八万三六一二円の総売上げを計上していたものであり、その利益率を三割としてみると、一か月当たり二九万七〇九〇円の利益を上げていたものと認めることができる。

もっとも、原告鈴木が二階店舗において平成一五年一一月まで営業を継続し、その間同様の利益を上げ続けるであろうとの蓋然性を肯定することはできないし、二階店舗の賃貸借契約の期間は平成七年一一月一日までと定められているから、平成一五年一一月の時点までの逸失利益を認めることはできない。

右のとおり、二階店舗の賃貸借契約の残存期間は平成七年一一月一日までの四か月一二日間であること、本件建物は昭和三四年以前に建築された木造の建物であり、本件火災時には少なくとも既に築後三五年以上を経過し相当に老朽化していたこと、原告鈴木の営業内容が飲食店の営業であること等関連する一切の諸事情を併せ考慮すれば、本件火災時(平成七年六月二一日)から二階店舗の賃貸借契約期間満了時(同年一一月一日)までの逸失利益のほか、その満了時から六か月分を加算した合計一〇か月一二日分の逸失利益の限度でこれを損害として算定するのが当事者双方の損害の公平な分担の理念に適うものというべきである。

すると、右逸失利益の額は、次のとおり三〇八万九七三六円になる(ただし、一か月に満たない日数については、一か月当たり三〇日の日割計算とする)。

二九万七〇九〇円×一〇か月+二九万七〇九〇円÷三〇日×一二日=三〇八万九七三六円

4  店舗移転による損害

原告鈴木は、本件火災により二階店舗での営業ができなくなり、営業を継続するために他の店舗を賃借したため、権利金相当額二八〇万円ほか合計七一八万四九八七円の損害を受けたと主張するものである。しかし、新たな店舗の賃借はそれ自体により原告鈴木に対し二階店舗での営業とは別個独立の価値を付与するものであるし、二階店舗での営業ができなくなったことによる逸失利益や同所に設置されていた設備備品等の動産類については、前記の限度でこれを損害として認めることができるのであるから、右損害のほかに、新たな店舗への移転費用等を重ねて損害として評価することは合理性を欠き許されないものというべきである。

よって、右の点に係る原告鈴木の主張は採用することができない。

5  以上2及び3の損害額の合計は三九七万六五五一円になる。

五  よって主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤村啓 裁判官 高橋譲 裁判官下田敦史は転任につき署名、捺印することができない。裁判長裁判官 藤村啓)

物件目録

一 所在 東京都新宿区新宿三丁目一〇番地一一

家屋番号 一〇番一一の一

種類 店舗 居宅

構造 木造瓦葺地下付二階建(登記簿上)

床面積 一階 三三・〇五平方メートル

二階 一二・三九平方メートル(登記簿上)

地下 三三・〇五平方メートル

二 右一のうち一階部分

床面積 三三・〇五平方メートル

三 右一のうち二階部分

構造 モルタル造トタン葺二階建

床面積 三三平方メートル

以上

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